もう、きっと君と恋は始まっていた
『私こそ、あの時、一緒にいてくれて、ありがとう。
崇人が一緒にいてくれたから、きっと私も前向きになれたよ…
…それに楽しかった』
別れる時、崇人に言わなきゃいけない言葉、だったんだけど。
あの時、崇人が別れを切り出したとき、すっごい苦しくて。
言えないままになってしまった、言葉。
私がそう言うと、崇人はフッて悲しそうに笑った。
『でも、そのうち知佳は忘れるよ』
崇人はオールを力強く漕ぎながら、そう言った。
『…忘れる?』
『俺も知佳と一緒にいて楽しかった。
けど、それは由樹たちの存在がいなくなったから、傷を舐め合ってただけだ。
今は、もう知佳には由樹がいる、俺にも……奈々がいる。
だから知佳は由樹と過ごしていく日々の中に俺を忘れていくよ』
忘れる…
崇人が俯きながら、フッて笑うから、私は崇人を見つめる。
『忘れないよ?
だって、あの時間は私にとって大切な日々だったから…』
でも、崇人は顔を上げなかった。
自然と私の手は崇人の膝に伸びる。
ね、崇人、顔をあげてよ…
崇人が俯くと、私は心配でたまらなくなる。
『…………フ、アハハ……』
でも、崇人はオールを漕ぐのを止めて、段々と顔を上げながら、何がおかしいのか笑い始めた。