もう、きっと君と恋は始まっていた
『…崇人も、奈々と上手くいくといいね…。
私も崇人の恋が今度こそ上手くいくこと、願ってるね!』
ちょうど、その言葉を言い終えたとき、春の優しい風が少し強く吹いた。
髪の毛が風に揺られて、私はそっと髪の毛が風に靡かぬように手で押さえる。
ふと、前髪も靡いたので、右手で前髪も押さえた。
右目だけ、前髪を押さえる手で隠される。
何故だか目の奥でジンジンしている、それが爆発しそうで、俯き、私は前髪を押さえる手に力を込め、そして完全に右目だけ手で隠した。
『知佳、由樹が待ってる』
崇人の言葉に、ボートが降りる場所へと着いたことが分かる。
そして、
『知佳』
優しい由樹君の声が背後からして、でも、振り返れなかった。
『知佳、由樹が呼んでんぞ』
崇人のその言葉は、“早くボートを降りろ”、そう言ってて。
それで、“早く由樹君のところに行け”、そうも言っている。
『知佳、どうした?』
由樹君の心配してくれてる声に、早く立ち上がらなきゃ、そうも思った。
でも、体が動かなかった。
『ほら!』
それは半ば強引だった。
動けない私の右手を掴んで、崇人が私の右手を引いた。
今引かれたら…
でも、そう思った時にはもう遅かった。
『……………知佳…?』
私の顔を見て、崇人も驚いた顔をしている。
かろうじて私の背後にいた由樹君と奈々には見られなかったと思うけど。
『………なんで…』
崇人が発した言葉の、その本当にすぐ後、由樹君がボートに立ち上がってる私の左手を掴んで、乗り場に引いた。
ボートはその反動に揺れたけど、その時にはもう由樹君の胸の中に私はいた…。