もう、きっと君と恋は始まっていた
『知佳、花粉症って前に言ってたよな?
ほら目が痒くて仕方ないんじゃね、赤くなってるよ』
私を自分の胸の中に引き寄せる、その一瞬に、私の涙に気がついたんだろう。
奈々にも崇人にも何も気づかれないように、きっとアドリブをきかせたんだろう。
そして、自分の胸に引き寄せることで、奈々や崇人にその涙を見させないようにしてくれたんだろう…
由樹君の優しさに気がつけば気がつくほど、胸が痛くて、何も言えなくなる。
『ごめん、俺、知佳を送ってくわ』
由樹君はそう言って、私を一度離すと、私の肩に手を回して、そのまま歩き始めた。
私は由樹君に支えられながら、由樹君と共に歩く。
『知佳、お大事にねー』
奈々のそんな声が背後から響く。
振り返ることも出来ず、何も返す言葉も声として出すことは出来なくて…
ごめん。
ごめん。
ごめんね、奈々…
そのまま公園の出口まで来て、私はようやく声が出るようになった。
『……由樹君…あの………』
『崇人と何を話したの?
崇人に何を言われたの?』
それはいつになく、とても真剣な顔を見せながらの由樹君の問いかけだった。
由樹君は回していた手を解き、私の前に体を移動させ、私の前に立った。
『なんで知佳が崇人のことで泣くの?』
『なんで、俺を見ないの?』
由樹君の顔はとても怖いものだった。
怒ってる、いやそれを通り越したような…でもその顔に緊張が走る。
『知佳は、俺のことが好きなんじゃないの?』