もう、きっと君と恋は始まっていた
きっと。
崇人の口からでるのは“奈々”のことだ。
昨日、私と由樹君が帰ったあとで、想いを確認し合ったとか…
それで、奈々は正式に由樹君と別れて、崇人と正式に付き合うことになった…
きっと、そんなとこだろう…。
こういう場合は、“おめでとう、良かったねー”って言えばいいよね…
うん、思いっきり笑って、そう祝福すれば、いいんだよね…
でも、そう考えれば考えるほど、そう思えば思うほどに胸が痛み出す。
『…………』
リビングのところまで来て、窓から外を眺めている崇人の姿が目に映る。
何か声をかければいいのに、私はもう少しだけ、このままでいたいと思った。
『…知佳?』
でも、崇人は私に気付いて、そう声をかけてきた。
渋々といった顔で、私は崇人が腰掛けてるソファーの横、カーペットの上に座った。
『そこ?』
崇人はそう言って、私の腕を掴む。
『……え……?』
『お前と話をしにきたんだ、もう少し寄れよ』
崇人はそう言うなり、私の手を引いた。
引かれるまま、私は立ち上がり、そして崇人の隣に座らされた。
『知佳』
そう呼ばれて、私は崇人の方に目を向ける。
『昨日、なんで泣いた?』
崇人は単刀直入に聞いてくる。
普通、そこはもっと聞きづらそうにするものなのでは…
そう思いながらも、真剣な顔をして聞いてくる崇人の視線が痛くて。
『ボート降りるとき、泣いてたよな?
俺、なんか嫌なこと、言った?』
そうじゃない。
そうじゃない。
そういうわけじゃない。
ただ、崇人の心の中には奈々しかいない、それをよーく分かっただけ。
分かったから、なんか悔しくて、苦しくて、悲しかっただけ。
でも、そんなこと、崇人には言えない。
“知佳が俺を選ばなかったら、奈々も崇人もお互いの気持ちを知佳に遠慮して言えなくなると思うけど”
由樹君に言われた言葉が胸に突き刺さる。
きっと、私が崇人の言葉に悔しくて、苦しくて、悲しくて、なんて言ったら崇人は気にしてしまうかもしれない…
言える、わけがない。