もう、きっと君と恋は始まっていた
『だから、今度は奈々に本当の気持ちを伝えてね?』
目の前にいる崇人の瞳が揺れる。
でも、私はそれに気付かない振りをする。
『今度は、ちゃんと奈々と幸せになってね?』
崇人の瞳が揺れた、その理由を考えたとき。
馬鹿な私は、それを勘違いしてしまうから。
『ねぇ、崇人、崇人は奈々と、私は由樹君と幸せになろうね』
それは今までで生きてきた中で一番、一番の精一杯の笑顔。
これ以上の笑顔は今、求められても厳しいけど。
でも、私、ちゃんと笑えてるよね?
大丈夫。
今から、ちゃんと由樹君だけを見ることにするから。
ちゃんと、由樹君だけを想うことにするから。
『ね、約束』
私はそう言って、崇人に左手の薬指を差し出した。
大丈夫。
由樹君のこと、絶対に私に振り向かせるから。
崇人は安心して、奈々と一緒にいて、いいんだからね?
崇人は私の頬から手を離し、小指を出す。
でも、一瞬のためらいがあって。
私は強引に崇人の小指に自分の小指を絡めた。
無理やりの指きり。
『崇人、私、今度はちゃんと守るよ!』
崇人は首を傾げ、私になんのことを言ってるのかと目で訴えてくる。
『別れたとき、言ったでしょ?
“友達”として崇人のことを笑わせてあげる”、そう言ったでしょ?
友達として、崇人の想いが奈々に届くように、由樹君のことなら、私に任せて!』
崇人はすぐに俯いてしまった。
私も崇人の背後にある窓から外の景色を眺める。
どうか、崇人の想いが奈々に届きますように。
どうか、奈々が由樹君を選びませんように。
どうか、由樹君が奈々を選びませんように。
どうか、崇人が幸せになれますように。
私の願いは、この時から、これだけでした。