もう、きっと君と恋は始まっていた
“崇人に、好き、とか言われたの?”
それが。
その質問通りだったら、どんなに私は幸せだったろう…
でも、現実は違う。
『由樹君、ちょっといいかな?』
まだホームルームが始まるまで、時間があったので、私は由樹君を廊下に連れ出した。
少しずつ登校してくる生徒が増えてきて、教室も廊下も騒がしくなってきたけれど、私は由樹君と一緒に教室から少し離れたところまで移動した。
『由樹君、あのね…』
私は着く早々に由樹君に声をかけた。
由樹君は私の隣に立ち、顔だけ私の方に向けた。
『昨日、崇人が来てくれたのは、私に“二週間後には私は由樹君を、崇人は奈々と付き合えるように頑張ろ”って言いに来てくれただけだよ?』
でも、私のそんな言葉を聞いても、由樹君は疑いの目をやめない。
むしろ、もっと疑いの目で私を見つめてくる。
『ボートに乗ったときも、“お互いに今度こそは自分の幸せを掴もう”、そう話しただけ』
私は言葉を続けていく。
そうしていないと、由樹君に話す機会を与えてしまうと、由樹君からミサイルのように言葉が返ってきそうで。
それに答えられる自信がない私は、どんどん自分から話しかけていく。
『由樹君、本当に何もないからね?』
そう。
本当に何もないの、何もなかったの。