もう、きっと君と恋は始まっていた




『はい、次は知佳の番。
 知佳の心の中の諸々を吐き出してください』



由樹君にふられ、私は唇をキツく結ぶ。



だって、私の気持ちを言える訳がないよ。


私が気持ちを言葉にしたら、奈々の想いが…






『知佳、あの時は、俺ら全員、想いを言葉にする奴はいなかった。
 それが今に繋がってるんだと思う。
 だから、今度は、今度こそ、全員が自分の想いを伝えたい奴に伝えなきゃ、また同じことの繰り返しになるんじゃないか?』



由樹君のその言葉は、きっと正しい。


そう、あの時は全員、自分の想いを、大切な“好き”の一言を言えなかった。


だから、


だから、今、こんな風になってる。



きっと、今度こそは、想いを…





『知佳は崇人のことが好き、なんだろう?』



私は由樹君の言葉に、一瞬戸惑ったけど、それでも首を縦に振った。




『……好き、崇人のことが好き………』




私の言葉に由樹君は優しく微笑んだ。





『…でも…崇人は奈々を好きだって言ってる。
 前のことも分からないけど、きっと今はそう宣言してるだけあって、本当に奈々のことが好き…なんじゃないのかな?』




『それはどうかな?
 俺は今でも崇人は知佳のことを想ってると思うけどな』



由樹君が私を思って言ってくれてるのか、それとも何か証拠があって言ってるのかは分からない。


でも、由樹君の言葉通りだったなら、私は崇人に、“好き”って言いたい…。








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