もう、きっと君と恋は始まっていた
時間が経つのは恐ろしい程に早いもので。
憂鬱な放課後がやってきた。
『知佳ー!』
放課後になって、奈々は勢いよく振り返り、そう呼んできた。
『奈々、元気だね…』
奈々の声の明るさに圧倒された私は、奈々同様の態度が出来なかった。
『知佳』
不意に奈々の隣の席の由樹君がこちらに振り向いて、私の名を呼んだ。
『…何?』
私は聞き返したけど、きっと昨日言ってたことに関して、由樹君は話したいことがあるんだよね…
『ちょっと由樹、知佳はあたしの恋の相談に乗ることになってるんですーぅ!!
だから今日は知佳は貸せないわよ、どんなにラブラブでも!』
私が答える前に、奈々が由樹君にそう言ってしまった。
でも由樹君はクスッと笑って、“じゃ、明日”、それだけ言って、カバンを持って教室を出て行ってしまった。
『知佳、由樹と一緒にいたいの?』
教室を出て行く由樹君のことを目で追っていた私に奈々はそう問いかけてきた。
『…そんなことないよ』
私はそう言って、カバンの中に予習が必要な英語の教科書とノート、そして辞書をしまっていく。
『ね、知佳さ、由樹とはどう?』
何も知らない、何も聞いていない。
だから奈々はこんなことを問いかけてくる。
それも含めて、今日は奈々にきちんと話せなきゃ、そう思った。
『あとでね』
“聞きたい聞きたい”と奈々は言ってくるけど、まだ私の隣の席には崇人がいるんだから話せる訳がない…。
『知佳のケチ!
絶対にお店に着いたら教えてよね!?』
怒るときまで可愛らしい奈々の顔を見ながら、私は笑いながら頷いた。