もう、きっと君と恋は始まっていた
『それで?
知佳はどうすんだ?』
『………うん。
奈々も由樹君も、崇人は私を好きだった、そう言うけど…。
やっぱりそれは違う、そう思うんだ』
『なんで?』
由樹君の問いかけ、すごく真面目な顔をしていて、こちらが戸惑ってしまう。
『由樹君と奈々には内緒にしてたんだけどね…。
私、ちょっと前まで崇人と付き合ってたの…』
『……そっか』
由樹君は私の言葉に俯いていく。
前髪で由樹君の目が隠され、今どんな顔をしているのかが分からない。
『…ごめんね…。
でも、でもね、お互いに“好き”っていう気持ちがあってとか…そういうことじゃなかったんだ。
崇人は奈々に、私は由樹君に失恋しちゃって…お互いに苦しくて、悲しくて、でも忘れられなくて…そんな毎日を変えたかったんだと思う。
二人でいれば、きっと変えられる、そう思いたかったんだと思う。
だから…お互いに別の相手を想いながら、一緒にいた……』
そう。
崇人は奈々を。
私は由樹君を。
好きで、好きで、どうしようもなくて。
でも叶わなくて。
届くことのない想いを抱えているのが重苦しかった。
どうしようもなかったんだ…。
一人で抱えることさえ出来ない、そんな大きな爆弾になってしまったんだ、由樹君への想いは、奈々への想いは…
だから、二人で背負う、二人で半分こ、そう思った……。
『だから……。
私たちはダメだった。
そんな別の人を想っているのに、その想いから逃れることなんて出来やしないのに…それでも私たちは逃れようと思ってしまった、逃れたいの望んでしまった……。
でも、ダメなんだよ……そんな想いを抱えてる者同士が一緒にいても埋められないの…忘れられないの……ダメなんだよ…ダメだったの……』