もう、きっと君と恋は始まっていた
『俺、付き合うよ、奈々と』
それは静かな屋上に、響いた。
分かりきってた答えなのに。
崇人がそう返事を出すって分かってたのに。
それでも、あまりにも静かな時に、現実を言い渡されて、もう、苦しい…。
『俺から奈々に返事、出しとくから。
知佳もご苦労さま、もう由樹のところ行けよ』
でも、
きっと、崇人から聞きたかったのは、
“奈々と付き合う”でも、“由樹のところに行けよ”でもない。
私が崇人に言って欲しかったのは。
『崇人、おめでとう。
幸せになってね!』
私が崇人に本当に言いたかった言葉は。
“好き”の一言。
でも、崇人が“奈々と付き合う”って。
崇人が“由樹のところに行けよ”って。
そう、私に言うから。
『じゃ、由樹君のところに行くね』
私は、そう、崇人に答えた。
『おー、行け』
崇人はそれだけ言って、フェンスに寄りかかった。
『崇人』
私の呼びかけに、崇人は面倒くさそうに、私の顔を見てくる。
『崇人、ありがとう。
お互いに幸せになろうね』
私は、いつもどおりの笑顔を見せる。
でも、崇人は手で、しっし、と追い払うようかのような仕草を見せた。
それを見て、私は、屋上を後にした。