もう、きっと君と恋は始まっていた
『CがYを好きだからっていう答えはさ、どういう意味なの?』
由樹君の落ち着いた声が教室の中から、教室のドア一枚を隔てたところにいる私の方まで聞こえてきた。
また、沈黙が流れる。
私は、ただ、その沈黙を破って、崇人がどういう答えを言うのかを待った。
『ね、崇人、CがYを好き、それがお前にどういう関係があんの?』
しびれを切らした由樹君が再び、崇人に問いかける。
『Cの想いをYに届けるためには…Nが邪魔なんだ』
やっと、崇人から聞くことのできた言葉は、“Nが邪魔”だった…
『邪魔っていうのはさ、NさえいなければCとYはくっつく、そういうこと?』
由樹君の口から、鋭い問いかけがなされる。
『CはYが好き、YもCのことが好きだった、だからNさえいなくなればCはきっと…』
奈々がいなければ私がきっと、何?
私が由樹君と付き合えるってこと?
私と由樹君が両想いになって、万々歳ってこと?
『ふーん。
崇人、もし知佳のため、とか言うならさ、俺は知佳の気持ちを受け取らないけど』
『………え……』
由樹君の言葉に、崇人が意味が分からないと言わんばかりに聞き返す。
『崇人、俺は知佳の気持ちをもらっても喜ばない、知佳の想いは受け取らない、知佳が例え傷ついて泣いたとしても、俺は知佳を慰めたりもしない、知佳を好きにはならない』
迷いのない、由樹君の言葉だった。
きっと、由樹君を迷わすことなく、こうやって崇人に言えたのは、きっと奈々の想うからこそだ。