もう、きっと君と恋は始まっていた
『由樹、お前…知佳のこと、どう想ってんの?』
崇人は由樹に問いかける。
『俺が好きなのは、知佳じゃない、別の人だよ。
崇人、知佳が泣くって分かってても、それでも俺に知佳を託すの?』
崇人は黙った。
由樹君の言葉に、きっと驚いたに違いない。
私が由樹君のことが好きで、でも由樹君は別の人が好きなんて…。
きっと、私の恋を応援したくて、それで由樹君のところに行け、そう言ってくれてたのに。
それが、由樹君の言葉で、私の想いがまた叶わないことを知ってしまったのだから…。
『由樹…どういうことだよ!?』
崇人の声が少し荒々しいものに変わっていく。
『なぁ、崇人。
お前、本当に知佳が俺のこと、本気で好きだと思ってんの?
本当に俺と付き合えばいいとか、そう思ってんの?』
『……そうだろ!?
知佳はお前のことが好きだって…大好きだって言ってたんだぞ!!?』
『この関係の最終日、俺は知佳を選ばない、知佳も俺を選ばない。
俺と知佳はそう約束…』
私は由樹君の言葉を遮りたくて、あたかも教室に今、きましたと言わんばかりに勢いよく、教室に入った。
由樹君は私の顔を見て、少し戸惑った顔を見せる。
崇人は……由樹君との会話でどう思ってるか分からなくて、怖くて、顔を見ることができなかった。
『…今日は奈々のお見舞い、俺一人で行ってくるよ』
由樹君はそう言って、カバンを持ち、そのまま席を立った。
そして、教室の入口まで来ると、私の頭をポンっと優しく叩いた。
『崇人、お前、もう少し、周りの気持ちに気付くように敏感になったほうがいいぞー』
由樹君は振り返らずに、そう言って、そのまま教室を出て行ってしまった。
取り残された崇人と私。
私は崇人と話すのが怖くて、急いで自分の席まで移動し、カバンを持ち上げて、由樹君の後を追おうとした。
『待てよ』
でも、崇人の低くて、そして怖い声と共に、空いてる方の手を引かれ、私はその場で立ち止まる。