もう、きっと君と恋は始まっていた





『……な……何?』



私はそう頑張って聞き返してみるも。

振り返って、視界に映った崇人の顔はすごく怖くて。

私はすぐに俯いてしまった。







『お前が好きなのは、由樹、だよな?』



その言葉と同時に、私の手を引いている崇人の手の力が一層強くなった。


痛いくらいの力に、そして崇人の言葉に私はどうしていいか分からなくなって。







『……なんで、そんなこと、聞くの…?』


聞き返すのが精一杯だった。








『質問に質問で返すなよ!
 俺が聞いてんの、先に俺の質問に答えろよ』






すごく真剣な目をしてる。

すごく真剣な表情をしてる。







『お前が好きなのは、由樹、なんだよな?』



もう一度、崇人は私に問いかける。



この視線が痛くて、逃げ出したくなる。



変な汗が背中を伝っていくのが分かった。







『……何度も言ってるでしょ?
 私が好きなのは、由樹君だよ…?』




私の言葉に、崇人は俯いた。






『…なら、なんで由樹を選ばないんだよ?』



『由樹がお前を選ばないから?
 それともお前が由樹のことを好きじゃないから?』




崇人の問いかけという名の嵐は止まらなかった。


でも、私は、その問いかけ全部を聞いて、そして微笑んだ。





『私は由樹君のことが好きなの。
 だから、私は最終日、由樹君を選ぶ。

 崇人は奈々を、奈々は崇人を、私は由樹君を。
 ね、崇人、崇人は今のままでいいよ?
 今のまま鈍くても、それでも純粋に奈々を想ってる崇人でいいからね』






『……わかんねー』


崇人はボソッと、それだけ呟いて、私の横を通り過ぎ、そのまま教室を飛び出していった。













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