もう、きっと君と恋は始まっていた
『もう、二人共、仲がいいのは分かったから。
とりあえず、落ち着いて座って?』
奈々が途中で止めてくれたお陰で、私は崇人の両手から逃れられた。
『信じらんない!
女の子のほっぺたをつねるなんて最低ー!』
自分の席に戻ろうとする崇人の背中に向かって、私は呟く。
でも、崇人は振り返らずに、そのまま自分の席に何事もなかったように座った。
『……奈々の言うことならすぐに聞くんだから』
思わず、私は心の声がそのまま声となって口から出た。
『…え?』
その言葉を聞き逃さなかったのか、隣に座る奈々は聞き返す。
『…え…あ、なんでもない!』
私は右手を顔の前でブンブンさせながら、そう答えた。
そうだよね…
奈々は崇人の気持ち、知らないんだもんね。
私も由樹君には告らなかったし、崇人も奈々には告らなかったし。
だから、私が勝手に崇人の気持ちを暴露なんてしちゃダメだよね。
私はそっと目の前に座っている崇人の顔を見つめる。
私の視線に崇人が気づいて、崇人の視線と重なった。
『なんだよ?』
いや、特に用事はないんだけど。
なんとなく、うん、崇人が今の会話にどんな顔してるのかな、とか気になっただけで。
『……別に』
でも、心の中で思ったこととは別の言葉が口から放たれる。
『あっそ』
崇人は短い返事をして、アセロラジュースに口をつけた。