もう、きっと君と恋は始まっていた





『知佳にはこれから先もずっと言わないの?』



奈々の言葉に、私は唾を飲み込む。




『……アイツには本当に幸せになってもらいたいから』


崇人が静かに、そう答えた。




『…そっか。』


奈々は短く返事をして、二人の間に沈黙が流れる。






“アイツには本当に幸せになってもらいたいから”



それって……どういうこと?



私は崇人のことが好き、なんだよ?


私の幸せを願ってくれるなら………



違う。



私が由樹君を好き、そう言ったから………








『奈々はさ、どうすんの?』


沈黙を破ったのは、意外にも崇人の方だった。





『…どうって?』





『俺は奈々とは付き合えないからさ。
 でも知佳は由樹を選ぶだろうし…』





『うーん……
 フリーになって、新しい恋を探すかな?』




奈々はそう言って、溜息を一つ、ついた。






『そっか…』





『ごめんね、あたしが由樹とくっついてあげるからって言ってあげられなくて』





『俺、諦めてるから、別にいいんだ。
 知佳が一番好きな奴と笑っててくれれば、それだけでいい…』







私は……私は、そうは思えないよ。




私は崇人の隣で、崇人と笑い合いたいよ…?








もう、この想いを崇人に伝えたい……。







『知佳』


そう背後で呼ばれ、振り返った先には由樹君が立っていた。



いつからいたのか…


勘の鋭い由樹君のことだ、崇人の気持ちを知ったうえで、私の決意が揺れていることに気がついていないか…


色々なことが頭の中を過ぎる。





でも、そんな私の不安を余所に、由樹君はフッて微笑んだ。







『知佳、強がるのは、もう終わりにしよう?』





由樹君の言葉が優しく、私の耳まで届いた。















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