もう、きっと君と恋は始まっていた
『……何…言ってるの…?』
私の声が震えた。
でも由樹君はそっと私に近づいて、私の頭を軽くポンっとする。
『崇人の気持ちを知った、それでも知佳はまだ崇人に奈々を好きなフリを演じさせるの?』
私は何も答えられなかった。
だって、なんて返したらいいかわからないんだもん…
『知佳、崇人に、“好き”って言えよ?
俺も奈々にちゃんと言って終わりにするからさ…
それが俺たち4人の答えだよ』
4人の答え…
由樹君は…自分の気持ちが奈々に届かない、そう思ってるの?
由樹君と奈々が幸せになってくれないと…私と崇人だけ、なんて無理だよ…
『由樹く……』
『奈々は本当は由樹のこと、どう想ってんの?
付き合ってる時に気持ちは変わらなかったのか?』
私が口を開いたとほぼ同時に、崇人が少し離れた場所で奈々に問いかけた。
…聞きたい。
私のことじゃないのに、奈々の答えが知りたい、そう思ってしまった。
『由樹は特別…。
私にとって、ずっと特別な人だよ……』
奈々は、そう答えた。
奈々の言葉を聞いて、由樹君の体がフリーズした。
『…もうね、由樹を傷つけたくないの…。
あんなにあたしを大切にしてくれた人だから。
大好きな知佳の傍に、今度は行かせてあげたいの。
由樹には……ちゃんと幸せになって欲しい…』
……奈々?
それって……
『奈々?
俺の予想が間違ってたらごめんな?
奈々さ、それって由樹のことが好き、ってことなんじゃないの?』
私の代わりに崇人が奈々に問いかけた。
『……うん。
由樹はきっと、あたしに新しい恋をさせてくれたんだと思う』
奈々の言葉に、私のすぐ横にいる由樹君が切ない顔をしながら奈々を見つめる。
私は由樹君の方に体ごと向け、そして由樹君に向かって、口を開いた。
『由樹君、さっき言ってたよね?
奈々に“好き”って言って終わりにするって…。
でも、由樹君から奈々との恋を始めなよ』
私の言葉に、由樹君は驚いた顔を見せる。
でも、私はその顔を見て、笑った。
『ちゃんと“好き”って言っておいで』
由樹君は私の言葉に首を縦に振った。
覚悟をした、そういう顔だったと思う。
だから、私は笑顔で送り出した。