もう、きっと君と恋は始まっていた
『………聞きたくないよ……』
奈々の声は震えていた。
『奈々、俺は、お前が好きだよ?
ずっと、奈々だけしか見てなかったよ』
由樹君のその言葉に奈々の目からは涙が溢れて。
私の目からも涙が溢れる。
『………でも……』
『奈々、俺の話を聞いて?』
優しく、奈々にそう話す由樹君に、奈々は手で涙を拭うと、由樹君の目を見つめた。
『俺、確かに最初は知佳のことがいい、そう思ったよ?
奈々が泣いてるのを見て、最初は同情だったのかもしれない…。
けど、少しずつ奈々が俺だけにしか見せない顔を見せてくれるようになって、俺、奈々のことが本気で好きだと思った。
お前と一緒にいた時間は、俺にとって、ちゃんと恋だった。
お前に恋をしてたんだ、今でも俺はお前に恋してるよ』
奈々は由樹君の言葉に、両手を口元に持っていき、そして口元を隠した。
その目からはたくさんの涙が溢れていて…
由樹君はそっと奈々に近づいて、その溢れる涙を指で掬った。
『もし、奈々が少しでも俺と同じ気持ちなら、もう一回、俺と恋をしないか?』
奈々は、ただ、その場で首を縦に振って、そしてすっごい幸せそうな顔をして笑った。
由樹君、
そして奈々。
おめでとう。
本当におめでとう。
今度は心から、ちゃんと祝福できるよ、私。
『あーぁ……由樹、奈々とくっついちゃったけど。
知佳、どうすんの?』
感動してる、その横から不意に問いかけられ、私は声の主へと振り向く。
そこには崇人が、微妙な顔をして、私のことを見つめていた。
『……いいよ、私の由樹君への想いはもういいの…』
私は、それだけ崇人に伝える。
崇人は、その言葉に、悲しそうに笑った。
『ごめんな、俺がちゃんと奈々の気持ちを掴んでなくて…』
崇人はそれだけ言って、そのまま私に背を向けて、歩き出した。