もう、きっと君と恋は始まっていた





『知佳、顔色悪いけど…?』


崇人はそう言って、私に近づいてきて、そして覗き込んでくる。





『……べ…別に何もないです…』


そう答えてみるも、崇人は更に鋭い視線を向けてくる。





『知佳、俺になんか話でもあるの?』


崇人は視線を反らさず、そのままの鋭い視線のままで問いかけてくる。





う……



こんな視線を向けられてたら、“好き”なんて言えない…


たった一言、されど一言、“好き”の一言がこんなにも重い言葉だったなんて、初めて知ったよ…





『…ないなら、俺、戻るわ』


崇人はそう言って、踵を返して、教室に戻ろうとした。







だから。



私は咄嗟に自分の腕を伸ばして、教室に戻ろうとする崇人の手を掴んだ。






『……知佳?』


崇人は私の突然の、その行動に驚いた顔を見せる。





『あ……あのね……?
 ちょっと、話したいことが…あるの。
 ……聞いてくれる……?』





ど…どうしよう……。


もし、“いや”とか言われたら…。



“好き”の一言を言う前に、玉砕してしまったら、どうしよう…。







『…うん、いいけど。
 知佳、何、泣きそうな顔、してんの?』


崇人の言葉に、私の目の奥の方がジンジンしてることに意識が集中する。

そうなると余計に何かが爆発してしまいそうで…





『知佳?』


それでも、心配そうに私の顔を見つめる崇人を見て、頑張ろうと思った。


この爆発してしまいそうなものが爆発する前に、崇人に、“好き”の一言を伝えよう、そう思った。







< 89 / 110 >

この作品をシェア

pagetop