もう、きっと君と恋は始まっていた
『あ、あれか!?
俺の事、励まそうとして…』
まだ崇人はそんなこと言ってる。
でも、その言葉に何も言えない。
ちゃんと、ちゃんと言わないと。
思ってるだけじゃなくて、ちゃんと口に出して、崇人に伝えないと。
『…違う。
励ますとか、冗談とか…そんなんじゃないよ。
崇人の事、ちゃんと好き、そう言ってるの』
でも、私の言葉に崇人の視線は泳ぐ。
焦点が定まらない、その崇人の目に、どうしても私を見てほしくて。
私は一歩、そしてまた一歩、崇人に近づく。
『ちゃんと、崇人のことが好き。
だから…』
『俺は無理』
私の言葉を遮ったのは、崇人。
『……な、んで……?』
そう聞き返すも、崇人はそのまま私に背を向けて、教室に戻って行ってしまった。
『……なんで…無理、なの……?』
崇人の姿が教室に入って、見えなくなった瞬間に、堪えていた涙が一気に溢れだす。
あれ……
今のって。
今の、“無理”っていうのは…
失恋、ってこと…だよね…?
視界なんてもう涙で滲んで見えたもんじゃない。
私はダムが決壊したかのごとく溢れだす、その涙をどうにか止めたくて、何度も、何度も何度も手の甲で拭き取った。
でも、溢れだす、その涙が、私に失恋したことを実感させていく。
『………………………好き……………崇人…………』
その言葉は無機質な壁に吸い込まれていくようで、でもその“好き”の想いだけはどうしていいか分からなくて。
私はただ、ただ、その場で泣いていた。
そう、由樹君に失恋をして、こんな風に泣いてる私に手を差し伸べてくれた崇人の手の温もりを思い出しながら、私は、ただ、ただ涙を流し続けた。