もう、きっと君と恋は始まっていた
『てか、そもそも崇人には関係ない話、だよな?
ごめん、忘れていいから』
由樹君はそう言うと、私の手をもう一度引く。
さっきよりも強引に、さっきよりも激しく、引かれた手に、再び由樹君の顔が近づいてくる。
これは、一体、何なの?
そう、一つの疑問が頭の奥の方で湧き出してくる。
『知佳、いいよね?
俺が奈々の次に、大切にしてあげるから、ね?』
さっきよりも近くなった由樹君の顔。
あ、キス、できる距離だ…
この状況を全く持って把握出来ていないというのに、それでも、由樹君とのこの距離に、それだけは冷静に思えた。
『……………………!』
……え……?
由樹君とキス、してる、そう思った。
でも、私の唇に触れているものは唇なんかよりも固いもの…。
そう、気がついて。
何が起きているのか確認しようと、唇に触れている固いものに視線を向けていくと。
あたかもキスを防ぐかのように、私の唇に手を当てている崇人の顔が視界に映った。
…崇人…?
『なんで、こんなこと知佳に言えんの?
なんで、こんなこと知佳に出来んの?』
崇人の言葉に、由樹君は顔を離し、少しムッとした声で返した。
『なんで、お前がこんなことすんの?』
由樹君の言葉に、崇人はハッと我に返ったかのように、私の唇から手を離した。
でも、由樹君の言葉は終わらない。
『なぁ、崇人は知佳のことなんて、なんとも思ってないんだろ?
知佳は俺のことが好き、奈々も俺が二股かけることを了承してる。
なのに、なんでお前がこんなことすんの?そんなこと言うんだよ?』