最後のコトバ

「だって、放したら梨華、逃げるだろう？俺はもっと話したいし、梨華と仲良くなりたいから」



“仲良くなりたい”なんて、初めて言われた。

しかも、初対面で飛び降り現場に居合わせたのに。

そんなことを言われて驚いた。


言葉に自信が持てなくて、何度も頭の中で繰り返しているうちに、不覚にも泣きそうになった。

そのことにも驚いた。

まだ、涙が出そうになることもあるんだ、と。

でも、ぐっとこらえた。

あたしに、泣くという行為は必要ない。


気持ちの変化に気付いたあたしは、顔を上げられない。

これ以上、表情の変化に気付かれたくはない。

表情に出ているかは分からないけど。



「まぁ、いいや。今日はここまでだな。あまり遅くなったら危ないし、帰ろうか。送るよ」



そう言って、彼はあたしの繋いだままの手を引いて立たせた。

そのまま、歩き出して屋上を出た。