最後のコトバ



まぁ、それも当たり前のことか。

どうしてこんなところにいるのか分からないけど、自分以外に人がいるとは思っていなかっただろう。

それも、飛び降りようとしている人がいるなんて。



「死ぬ気だよ」



あたしは、表情を変えずに言い放つ。

そのために、ひと気のないところに来ているんだから。


あたしの言葉に、男は目を丸くした。

驚いているのだろうか。

何も言わずに、じっとあたしを見ている。


そんなに珍しいのだろうか。

自分の近くにはいないかもしれない。

だけど、この広い世界の中にはこういうヤツだっている。

全てに諦めたあたしのような人間が。


黙り込んでいる男は、助けると同時に掴んだあたしの腕を、未だ掴んだまま。

放してくれる気配もない。

だからと言って、強く掴まれている訳ではない。

すんなり放れそうなほど緩い。




< 4 / 83 >

この作品をシェア

pagetop