最後のコトバ
まぁ、それも当たり前のことか。
どうしてこんなところにいるのか分からないけど、自分以外に人がいるとは思っていなかっただろう。
それも、飛び降りようとしている人がいるなんて。
「死ぬ気だよ」
あたしは、表情を変えずに言い放つ。
そのために、ひと気のないところに来ているんだから。
あたしの言葉に、男は目を丸くした。
驚いているのだろうか。
何も言わずに、じっとあたしを見ている。
そんなに珍しいのだろうか。
自分の近くにはいないかもしれない。
だけど、この広い世界の中にはこういうヤツだっている。
全てに諦めたあたしのような人間が。
黙り込んでいる男は、助けると同時に掴んだあたしの腕を、未だ掴んだまま。
放してくれる気配もない。
だからと言って、強く掴まれている訳ではない。
すんなり放れそうなほど緩い。