最後のコトバ



緩いと分かったから、自分の手を引いて放してから立ち上がる。

そして、ドアの方へ歩く。



「おいっ、どこへ行くんだよ」



あたしが動いたのを見て、我に返ったかのように言う。



「帰るの」



振り返らず、歩みを止めずに言う。

つい条件反射で言葉を返したけど、返す必要なんてないんだ。



「明日も、ここに来んの?」



だから、この問いかけには答えなかった。

他人に答える必要のない質問だ。

そして、そのまま屋上を出る。

出てしまえば、何も言われることはない。

それに、あとを追ってくることもないと思った。


なのに、階段を降りている途中にドアが開く音が聞こえた。

それから、降りてこないでその場で叫ぶようにして言う。



「明日もこの時間にここへ来いよ!」




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