最後のコトバ
促されるままに乗ったけど、この状況を理解することが出来ない。
彼女は一体、何者なんだろうか。
あたしは、ここにいてもいいのだろうか。
初対面の人と話すことが出来ないあたしは、疑問に思うことを何一つ聞けないでいる。
「大丈夫。怪しい者じゃないから」
運転席にいる彼女が、ルームミラー越しにそんなことを言う。
無表情でいたつもりなのに、少し表情に不安な気持ちが出てしまっていたらしい。
少しだけ気まずくて、隣にいる彼を見た。
彼女の言葉に同意するかのように、彼は頷く。
彼が頷くということは大丈夫なんだろうと、ほっとする。
その直後、なぜか彼は驚いたような表情をする。
だけど、何かを言う訳ではない。
ただ、考えるようにして黙っているだけ。
そんなことに気づかない車は、街中を通りすぎ、住宅街の中にある一軒の家の前に停まった。