犬系彼女 -飴はブドウ味派- 短編
「………」
いつにも増して真剣な顔に、不覚にもかっこいいと思ってしまった。
気付けば、黒澤君は後ろを向き歩き出していた。
「くろさ…」
「ま、コケたら終わりだけどな。」
「はっ!? ちょっと!最後のいらないんだけど!」
なんなのよっ、もう!
でも、私にはもう緊張は無かった。
…最後まで走ったらちゃんとお礼言おう。
そう心に決めて、私は列に並んだ。
「位置について、よーい…」
――パァァンッ!
今日何度目か分からないピストルの音で、選手たちが一斉に走り出した。
さすが選抜という事もあり、なかなか差は広がらない。
普通の選手のグラウンド半周に比べ、アンカーは一周。
しかも、私の両脇を固めるのは男子。
順番が近付くにつれ、鼓動が早くなる。
でも、不思議と焦りは感じない。
「きゃーーーっ! 黒澤くーん、頑張ってー!!」
「黒澤くーん!!」
女子の黄色い声援で、もうすぐだと気付かされる。
うわ、めっちゃ速い!絶好調じゃん!。
黒澤君は先頭でコーナーを曲がり、直線に入った。
私は始まる前に言われた事を思い出し、前を向く。
右手を横に出し、タイミングを合わせて私も走り出す。
すると、まさに来て欲しいタイミングでバトンが右手に乗る。