犬系彼女 -飴はブドウ味派- 短編
それがスイッチかのように、私はバトンを握り締め思い切り足を動かした。
精一杯の力で地面を蹴る。
黒澤君がつくってくれた差は無くなりつつあったが、ゴールまでは足りる距離だ。
このまま行けば…っ!
そう思いながら最後のコーナーを回った時、私はやってしまった。
「――っ!」
黒澤君が言ったせいで無駄に意識し過ぎたのか、それとも張り切り過ぎたのか…よく分からないけど足がもつれ、転びそうになる。
終わりだ…
瞬間、そう思った。
…だけど
「――走れ遥!」
「っ!!」
これまたタイミングよく、黒澤君の声が響いた。
普段こんな大声出さないから、今どんな顔してるんだろう…
なんて思いながら、私は自然と背中を丸め頭をお腹側に入れていた。
そして勢いのまま転がり、立ち、走る。
…そう、転ぶは転んだけど、私がしたのはでんぐり返し。
形こそは汚いけれど、普通に転ぶより何倍もいい。
そして無事に1位でゴールする事ができた!
先輩だけならず、クラスメイトや先生からも絶賛された。
そして最後、黒澤君に。
「こんなに汚れて帰ってくるとか…本当、犬だな」
と笑われたのは、言うまでもない…