犬系彼女 -飴はブドウ味派- 短編
「ねぇ黒澤君、リレー出ないの?」
この時はまだ名字で呼んでた。
名前で呼ぶほど親しくなかったし。
振り返った黒澤君は、少し間を空けてから答えた。
「…何か、面倒くさそうだし。それに、俺が走ってるところなんて、皆想像つかないだろ。」
えっ、そんな理由?
まぁ確かに、普段見ている彼はとてもマイペースで、急いでいたり走っている姿はなかなか想像つかなかった。
「でもさっき先生が、黒澤君に走ってほしいってボヤいてたよ?」
「………」
そう言うと、黒澤君は私から目線を外し、少し考えているようだった。
お? このまま押せるかも…?
なんて思った私は、言葉を続けた。
「それに、普段の黒澤君から想像出来ないっていうのも、ギャップがあって私は良いと思うよ!」
きっと他の女子もそう思うはず!
すると、黒澤君はピタリと固まった。
…どうしたんだろ?
私何か変なこと言ったかな?
「おーい、遥ー! 部活遅れるよー!」
その時、廊下から私を呼ぶ七海の声がした。
教室の時計を見上げれば、思っていたより針が進んでいた。
わっ、本当だ! 行かなきゃ!
「ごめん黒澤君、部活あるから行くねっ!」