それでは最後に
長い時が過ぎた。
いや実際には10秒くらいだったのだが、少なくとも俊介には永遠のように思われた。

「(死ねる。店の中に知り合いしかいないこの状況ならまだしも、誰か知らない人が入ってきたらその瞬間舌噛める。遺書が書けないってのは悔しいが、もし書けるなら自殺の動機は『居たたまれなかった』だ。父ちゃん母ちゃんごめん、でもやっぱり俺にゃ無理です、今までありがとう-)」




「あのっ…」


その掠れたような一言は、一人の若者を自殺の危機から救った。
長い長い沈黙を破り、遂に小口紗祐里は口を開いたのだ。


頬を真っ赤に染めながら。

やり場をなくした両手の指をしきりに絡ませながら。


どう見ても場の空気を読んでいないその仕草は、部外者であり傍観者である二人を激しく動揺させた。


「(おいおいおいおいなんだそりゃなんだその乙女的反応は!あ、あれか?持ちあげといて一気に落とすという逆ドッキリ的な展開を勝手にセッティングしてくれたのか!ね、そうでしょ?そうなんでしょ?もういいよありがとう俺のバカな企画にこんなに真面目に付き合ってくれて。だからもうネタばらしの時間です…ねえネタだよね?ここまでは全部演技だよね?)」


「(え?紗祐里ちゃん?まさかね嘘でしょほらだって相手の人の方が逆に困ってんじゃん?まっさか本気にしてんじゃないかねこの子。いやでもどう見てもこの男変態にしか見えないもん。え?なにそれともこれはむしろ私がツッコみを入れろってことなの?いやあ無理ですよ仮にも清純地味眼鏡ちょいドジっ子を20年間演じてきた私がそんなこと出来るわけないじゃない)」
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