それでは最後に
暴走寸前の本能を食いしばった奥歯で噛み潰し、俊介はぎこちなく笑う。


「じゃ、じゃあ店の前で…待ってるから…」


「う、うん…」


体の中に残っているアルコールが、ガソリンの如く血液を走らせる。心臓から指先へ、指先から心臓へ。
耳元の毛細血管を駆け巡り、胸のど真ん中に紗祐里の声を響き渡らせる。充血した赤い眼から、こくりと頷く紗祐里の視線を脳の一番奥まで届ける。








仮に。仮に人を一人黙らせる超能力があれば。たった一時間眠らせる薬があれば。
…せめて、登が店内に留まってくれていれば。



二人はうまくいったのかも知れない。
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