それでは最後に
坂本明。20歳。
酒屋の息子として生まれた彼は、特に何の不自由を感じるということも無く、かといって人より優越感に浸るようなことも少なく、その人生を送ってきた。



そんな彼は、今これ以上ない劣等感に苛まれている。

劣等感の対象は、大学の友人である名倉俊介。
客観的に見て、まあ確かに俊介の方が顔立ちが整っているし、小ぎれいな服装や髪型をしている。だがその一方で、社交性や頭の回転といった、一見しては分からないような能力に関しては自分の方が勝っているという自負があった。友人だって男女問わず自分の方が多いし、スポーツだって勉強だって歌だって車の運転だって料理だって

「(それなのに何でこうなるの?何で?ねえ何で?)」

目の前で起きている光景を信じることが出来ない。どうして罰ゲーム告白のはずがあんないい感じになっているのか。しかもそれを企画したのは自分だというやり切れなさ。

…俊介のことが嫌いなわけでは決してないが、少し恥ずかしい目にあってもらおうとは考えていた。

「(いやそりゃちょっと意地悪だったかも知んないけど、だって罰ゲームじゃん…そんくらいいーじゃん…)」

あってはならない。あってはならない。こんなコントみたいな展開はコントの中だけで十分なのだ。

「(そう、これはコント。お笑い。ボケに対してはツッコみを入れるのが掟。そう、掟なのだ。つまりあの茶髪女のボケに対して俊介が一向にツッコみを入れる気配を見せない以上俺がツッコまなあかんということじゃあらへんのやないでっしゃろか)」

頭の中で奇妙な関西弁を操りながら坂本が暴走を始める。

「(そう、これはツッコみなんや。ワシは自分の使命を果たすだけであって決していい感じになってる二人がうらやましいとかそんなんやないようん断じて違うからだからだから)」
< 17 / 37 >

この作品をシェア

pagetop