それでは最後に
通りに出て、一瞬右を見る。
青信号が点滅しているのを確認すると、自分の走力と信号機までの距離を照らし合わせてこちらに逃げるのは無理だと判断し左に重心を傾ける。


刹那、背後に感じた殺気。ざらざらした舌のようなものが、背中を下から上へ舐め上げる。


冷たく、おぞましい。


その殺気を避けるように身を屈め、反動で地面を蹴る。


「逃げてんじゃねえよ!」


伸びてきた紗祐里の手が首をかすめる。


「(大和撫子はもうちょっと穏やかな言葉遣いをするべきだと思うな)」


心の9割は『恐怖』の2文字で支配されているので、残されている1割で必死に呑気なことを考える。



「誰かそいつ捕まえて!!」



背後から息混じりの絶叫が聞こえる。冗談じゃない、捕まってたまるか。
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