それでは最後に
同時刻、アパート『草江荘』101号室、坂本明家。別名雀荘アキラ。別名一畳ホテル。別名カップ麺備蓄庫。


「おかえり」


我が家に帰って来た明を待っていたのは、テレビゲームに没頭する圭太のやる気のない出迎え返事と台所に立っていた登の手元から聞こえるだばだばという音。


「あーおかえり。腹へっちったから作っちった」


カップ焼きそばの容器を手に、独特の関東訛りで調子をつけながら湯切りをする登。


「俊介帰ってないよな」


明の顔は青ざめている。圭太がコントローラーを置いて明の顔を見た。ジョン・カビラがゴールゴールとやかましく叫んでいる。


「なんや俊ちゃん逃げたんか?」


僅かに笑みをたたえながら言う圭太。


「あ、まあ、逃げた。逃げたっちゃ逃げたしそれは日本語としては凄く正しい」


「まあ落ち着きいや。言うとるさかもっちゃんの日本語がおかしいよ」


動揺、後悔。明の頭の中で先程のカウンターを跳び越した時の紗祐里の顔が踊っていた。
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