それでは最後に
多摩川円海。円に海でまどかと読むのだが、俊介が知る限り全ての人間が、まるみあるいはまるちゃんの愛称で呼んでいる。ふっくらした頬に愛嬌をたたえ、それを支えているのは良く言えば母性溢れる、もっと良く言えば安定感抜群のボディ。よく笑い、よく食べ、よく喋る。典型的な陽性人間だ。圭太と同じ教育学部の2年で、大学構内で見かける時は大抵目の醒めるような色の服を着て友達と喋っている。
声が大きいのと彼女自身の影で友達が隠れてしまうため、一見独り言を言っていると勘違いする、とは登の証言。
大方の男はスリムな体型を好む傾向にあるが、痩せればいいというものでもない。円海の場合は痩せないほうがいいような気がする、とは俊介の弁。


敬意を表してショッキングピンクミートボールスピーカーと呼ばれる彼女こそ、圭太の最愛の恋人である。


「まるみはその程度じゃ怒らんもん」


圭太は余裕を崩さない。一月程前に付き合って一周年の記念日のデートをすっぽかして寝込みにレッグドロップを食らったのをもう忘れているようだ。


「実は、追っかけられてる時若干興奮した」


「は?」


また聞き返す圭太。


「眼が、ね。俺を殺さんとせんばかりの眼光が」


「それで?」


「うん」


「……きしょっ」


圭太は今度こそにやにや顔のイソギンチャク頭を強引に突っぱねた。
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