それでは最後に
正確にはその言葉は俊介に向けられたものではなく、端に座っていた地味めの女へのものだった。
声を掛けられた女は、どうぞと小さく呟きながら一度席を立って通り道を作ってやる。


「すみません、ありがとうございます」


声の主は丁寧にお辞儀をしてから、5人掛けの机の右から二番目。俊介の右隣に座った。


「あ」


目が合った瞬間、確かに彼女はそう漏らした。短く、本当に短く。
俊介は机に突っ伏したまま、半目でその顔を睨みつけた。もう彼女はこちらを見ていない。透き通るようなロングの黒髪、切れ長の目尻はその日本人離れした輪郭に合わせて繕ったかのようだった。横顔文句無し。一見して美人だった。


「(ほう、これはこれは)」


俊介は出来るだけ表情筋を動かさないように注意しながら、視線を下に落とす。薄い緑のハイネックセーター。


「(そういやライムグリーンが流行色だとかテレビで言ってたな。よく見るような気がする)」
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