雨の日、キミに欲情する
一瞬で跳ねた心臓と赤くなった自分に動揺した私は
「な、なんで? いえ、どうしてですか?」
上司に向かってタメ口で、それも吃ってしまった。
だけど野島さんは、そんな私のことは何一つ気にしていないようで、表情ひとつ変えずに言う。
「この間、バレンタイン商品のパッケージデザインをしただろ?」
専門学校のデザイン科を出て、今年で入社2年目になる私は、お菓子メーカーのゴンチャルが販売するバレンタイン用の商品のパッケージデザインをした。
だが、そんな大きな仕事を私一人で任されたワケではなく、デザインの共同担当として野島さんがついてくれた。
チーフであり仕事に厳しい野島さんに、私は何度もやり直しを命じられた。徹夜でボロボロになっても、野島さんからデザインのOKが出ない。
悔しくて情けなくて、隠れて何度も泣いた。
泣いたけど自分に負けたくなくて…歯を食いしばった。
そして、やっと自分でも満足するデザインが出来た。
それは私が大好きなヒトにあげたい、大好きなヒトから貰いたいと思ってイメージしたデザインで。
野島さんはそのデザインを見て『お前の良さが出ている』と言って認めてくれた。
野島さんの笑顔は今までも何度も見たけど、あの時に見せてくれた野島さんの笑顔は、
初めて見る笑顔で...
私を深く慈しむような、優しい笑顔だった。