雨の日、キミに欲情する
「どうぞ、下までお送りします」と、柴崎 圭はスマートな仕草で会議室のドアを開けた。
野島さんは「ここで結構です」と会釈するが、剛田さんがそれを阻むように「ご一緒に参ります。どうぞ、こちらへ」と、笹島さんと野島さんをさりげなく導く。
剛田さんに連れられて、野島さん達がドア付近を通り過ぎようとした時、柴崎 圭は私の方を見つめていた。
彼はドア付近で、野島さん達から一人出遅れた私を待つように立っている。
私は思わずその視線から目を逸らし、俯きながら急ぎ足で野島さん達を追いかけた。
柴崎 圭と私の距離が近づけば近づくほど、ドクンドクンと心臓が早鐘のように、早くなっていくのを感じて……。
どうする?
『ナノ』だと、伝える?
いや、私の事すら、もう覚えてないかもしれない。
伝えたとして、どんな顔をしたらいい?
あの日から一度も会ってないのに?
今さら...
そんな言葉が頭に浮かぶ。