雨の日、キミに欲情する
『あまり関わりが無い』
そう、あまり関わりの無い位置関係。
「...その割りには随分親しそうだったな」
「え?」
野島さんのボソっと抑揚のない声がした。
驚いて笹島さんの向こうにいる野島さんを見ると、表情の変化も無く、先程と同じように真っ直ぐ前を見たままだった。
「そうだよっ! あの柴崎さんを『圭ちゃん』って呼んだ事も驚いたけど、一番驚いたのは柴崎さんだよ!」
「え?」
「クールな柴崎さんのプライベートを垣間見たって感じで、ビックリしたよ。あまり関わりが無いって言っても、やっぱ、それなりに親しいよね、ね?」
「え? あ、まぁ、はい」
なんだか笹島さんに、強引に親しいと言わされてしまった感じが否めない。
笹島さんは腕を組んで、片手を顎に当てて「そりゃあ、当然だよね。幼馴染みになるんだし」と一人でウンウンと頷いて、納得している。
『圭ちゃん』って、名前を親しく呼んでいるから、親しくは見えると思う。
何にしろ、私は最近の圭ちゃんを知らない。
8年ぶりに会ったし、最後に会った圭ちゃんは、大学生だった。
社会人じゃなかった。