雨の日、キミに欲情する
私は野島さんから目を逸らすように、下を向く。
俯いて、ただひたすら、膝の上にあるカバンだけを見つめた。
会話はまた途切れ、電車の揺れる音のリズムが聞こえる。
また私達だけが静寂になる。
笹島さんも何も喋らなくなってしまって、手帳を見てスケジュールの確認でも始めたみたいだ。
夕陽の光より、夜の影が濃くなって来ていたせいか、足元の長く伸びた影は無くなっていた。
電車のアナウンスが流れ、やっと降車駅に到着したようだ。
野島さんは、すっと立ち上がり、私の方を見た。
野島さんと私の視線が、一瞬だけ絡んだ。
「仕事は仕事だ。......降りるぞ」
それからも野島さんと私は視線が合う事もなく、それ以上の話は無かった。いや、それ以上の話を続ける事が出来なかった。
私達は、無言で電車を後にした。