雨の日、キミに欲情する
タイムカードを押して、エレベーターに向かう。
なんだか疲れたなぁ、と考えてたら「花菜ぁぁぁぁ!」と後ろから声がした。
振り返ると、田原千沙が走ってきていた。
私の側に来て、少し息を切らしながら「花菜が帰るから、私、帰り支度をして追いかけたわよ」と苦笑いを見せた。
私より2歳年上だけど、彼女は4年制大学を出てからの入社なので、入社時期は同じ。
私はデザイナーとして入社だけど、彼女は事務職として入社した同期の一人。
「野島さんと何かあった?」
千沙は私より背が低い。
だから私を下から覗き込むように見るのだが、その瞳は少し不安気な色をしていた。
千沙の外見は髪はクルクルとカールをして、目元は付け睫毛で盛りに盛っていて、女子力を上げることに余念がない今時の女の子だ。
だけど誰もよりも周りの空気を素早く察知するし、外見に似合わずサバサバした性格だから、気になる事をその場で直球で聞くなんてことは、彼女にとってはごく自然な行動。
何があったのかと聞く千沙は、私の様子から何かを察知したのかもしれない。