雨の日、キミに欲情する


「お疲れ様です」

声をかけると、笹島さんは私と千沙を見て、少し驚いた顔をした。


「あれ? 野々村さん、もう帰るの?」

と、言いながらチラっと千沙を横目で見る。

「はい。笹島さんは、まだですか?」

「いや、一旦デスクに戻るけど、今日はもう帰るよ。何かと疲れたし」

笹島さんは肩を竦めて、苦笑いする。


「ちょっと、笹島さん。聞きたい事があるんですけど」

千沙が会話に割って入るように話しかけると、笹島さんの表情は一変して、「何? どうしたの?」と千沙にニコと笑った。


「今日、何があったんですか?」

「え? ソレを聞く? いやぁー、まぁ、ね。色々ですよ」

笹島さんが曖昧にぼかすように返答しているつもりだろうけど、何かあったと肯定しているようものだ。

そんなわかりやすい笹島さんを、千沙はまるで逃さないという目で見る。

「ここじゃなんですから、別の場所で教えてもらいますね、一緒に来てください」

千沙がニヤリと笑った。
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