雨の日、キミに欲情する
ーーー怖い。

私は怖じ気づいて、少し後ずさりをしてしまった。

圭ちゃんが、そんな私に気づいて振り向く。


伏し目がちに私を見つめて、圭ちゃんは私の頭の上に手を乗せ、ポンポンと二回、優しく触れた。


「光太に、よろしくって...伝えといて」

と、優しく微笑んだーーーーその事を思い出して、突然、黙り込んだ私に、

『...花菜?おいっ!花菜!』



お兄ちゃんが慌て電話の向こうで、私を呼びかけていた。

「え?あ...」


ーーーそうだ。私、お兄ちゃんと電話していたのに。

「ごめん。ちょっとボーッとしていた」

と、苦笑いすると、お兄ちゃんが静かな声で私に聞いた。


『花菜...圭、元気だったか?』

「え?あ、うん。元気だったけど?」

『...そうか』

「そうかって...。お兄ちゃん、圭ちゃんと...」

『...しばらく会ってない』

「え? あ、そうなんだ」

『ああ。お前が、学校を卒業した頃くらい。一年以上...かな?』

「そうなの?」

『まぁな。あいつ、お前に何か言った?』

「何かって...特に何も」

『...そうか。花菜、お前さぁ...あ、まぁいいや。とにかく、週末は予定いれんなよ』

「う、うん」


『じゃあな』と言って電話を切ったお兄ちゃんの様子ーーー変だと思った。
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