雨の日、キミに欲情する
もう一度、圭ちゃんに「ナノ」って優しく呼んで欲しかったんだってーーー私に笑ってくれる圭ちゃんに、もう一度会いたいって思って、私は泣いた。

こんなに悲しくて、会いたいのに、幼い私は自分から会いに行く事が出来なかった。

そうして月日が過ぎて、いつしか会えない事に慣れてしまった私は、寂しかった気持ちも風化してしまった。

「ナノ」って呼ばれてた事すら、私は忘れてしまった。

だって、圭ちゃんだけが、私をそう呼んでいたから。

圭ちゃん以外は、誰も「ナノ」って呼ばないから。


それなら最初から、誰も「ナノ」って呼んでなかったんだって、思えばいい。

そうする事で、「ナノ」と呼ばれていた事も、圭ちゃんのあの優しい笑顔も、全て忘れる事が出来るのだからーーーと。

切ない想いを心の奥に封印して、そうやって、過ごした8年間だったのに、

今日、私は「ナノ」って呼ぶ声を聞いた。

優しく私を「ナノ」と呼び、私に柔らかく笑う圭ちゃんの顔を見た。
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