杉下家、姉弟の平和な日常
呼び出し
昼食後の一番眠たい時間の講義中。
カバンの中に放り込んであったマナーモードの携帯が震えて、俺はすぐに止める。
携帯を取り出すと画面には姉からの連絡であることが表示されている。
一応緊急性の有無を確認。
『S駅3番出口何時に来れる? 姉』
内容は実に一方的だ。
拒否や行けないという選択肢は与えられていない。
『俺講義中』
抗議の意味を込めて短く返事をする。
それで諦めるだろうと思ったら、すぐにまた机に置いた携帯が震え、教授と目が合ってしまう。
軽く頭を下げて謝罪の意を示し、教授の目が離れてからメッセージを確認する。
『大学なら20分あれば来れるわね。 姉』
講義を放り出して姉を優先するなんて選択は俺がするはずもない。
ましてや実の姉のわがままを優先する謂れはない。
『だから、俺講義中。無理』
文句をいわれるかもしれないので、バイブ機能も切ってみたが、それから返事がない。
一応追加で念押しの『行けない』とか送ってみたものの無反応。
時間は刻々と過ぎる。
今日はこの後選択している講義が一つ。
講義が終わってみんなが移動し始めても動かない俺に、友人が声をかけてくれる。
ぎりぎりまで悩んだ末、気に掛けてくれたありがたい友人に、次の講義を休むことを伝えてもらえるようお願いして大学を後にする。
大学生になってまで姉に振り回されるとか情けないが、長年叩き込まれた力関係は根強い。
無視したなんてことになればどんな暴挙に出られるかわからない。
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