杉下家、姉弟の平和な日常
杉下デリバリー
力任せに姉を引っ張っていく途中、俺に向けられる周りの目が痛かったが、できるだけ気にせず待ち合わせ場所に近づく。
すぐに気づいた剛さんが駆け寄ってくれたので、冗談交じりに姉を引き渡す。
「杉下デリバリーでーす」
警戒心MAXで逆毛を立てた猫のような姉は身体も表情も硬い。
ホントに心配していたのだろう剛さんは、俺から姉を奪うように腕の中に閉じ込める。
「連絡付かないし、心配してたんだよ、由梨絵ちゃん」
バカップルが。
何で姉の恋愛事情に首を突っ込まなきゃならないのか。
俺の授業とデート時間を返せ。
俺相手には散々妨害活動をしてくれたのに、剛さんの腕の中で意外にも抵抗らしい抵抗をしない姉は、小さくうなるだけ。
手負いの獣か。
「剛さん、姉ちゃんが扱い辛いのは仕様なんで、ご了承ください。返品不可なんで、俺はこれで失礼します」
「あ、俊也くんも待ってくれる?」
「へ?」
あとは二人でいちゃついてくれ、とばかりに立ち去ろうとした俺は剛さんに止められ、素っ頓狂な声を出してしまう。
引き止められる理由もないはずだ。