杉下家、姉弟の平和な日常
指定された場所に凛と立つ姉は、好みはあれど、身内びいきだと言われても美人に分類されて差し支えないだろう。
しかし、その美人も台無しにする凶悪にぶすっとした顔。
ひと目見ただけで、姉の虫の居所が悪いのはわかった。
人が遠巻きにして近づかないくらい、苛立ったオーラを振りまいている。
これでは怖くてナンパもされないのだろう。
「遅い」
俺が近づいていくとすぐに気づいたらしく、しかめっ面をさらにゆがめる。
弟の俺を呼び出す理由なんて、八つ当たりと力仕事しか思いつかない。
「急に呼び出したくせに、ちゃんと来ただけありがたく思えよ。大学サボらせてまで優先する用事ってナンデスカ」
嫌味を込めて華奢な体の上に乗っかっている不満顔を見下ろす。
「買い物。荷物持ちして」
「はあ?!彼氏に頼めよ」
姉と買い物デートなんて気はさらさらない。
行くなら彼女と楽しく心軽やかに行くので、大迷惑だ。
「剛とのデートはキャンセルしたの。黙って着いて来る!」
俺の都合は完全無視で姉は俺の腕を掴んで歩き出す。
「今度は何不貞腐れてんだよ」
「潔白なのに、変な疑いかけられたから許せないの」
「またそれ剛さんに言わずに抱え込んでんだろ。そういうのは当事者に言って、俺じゃなくて友達に愚痴れよ」
なぜか姉は彼氏に気持ちをさらけ出さないところがある。
当然不満を訴える俺を引っ張っていた姉が急に立ち止まり、その背中にぶつかりそうになる。
目の前で姉は勢いよく振り返って条件を突きつける。
「リージュリーのプリン奢る。お土産もつけてあげる。行くよ」
そう言い放つと俺の手首を掴みなおしてまた歩き出す。
好きな喫茶店のプリンを駄賃にぶら下げたように言うが、俺の希望や拒否権は一切なく、ココに居ない剛さんに、胸の内で恨み言を吐きながら、俺は姉の着いて行くしかなかった。