杉下家、姉弟の平和な日常
「勝手に触んな。うちのになんか用っすか」
姉の腕や肩を掴んでいる男たちの手を払って、姉を引き寄せる。
「ああ?なんだ、男連れかよ。一人で泣いてんなよ、お嬢ちゃん」
「最初っからそう言ってたでしょ!変態!」
さっと人ごみに消える男たちに追いかけるように噛み付く姉を引きとめながら負けん気が強いというか、正義感が強いが、腕力じゃ勝てないのを自覚していない姉に俺は肩を落とす。
「姉ちゃん、もういいだろ」
「あ、あんたが来なくても撃退できたわよ」
「どうだか」
以前も見ず知らずの変態に付きまとわれたことがあるので、信憑性に欠ける姉の強がりを適当に流して人の流れに沿って歩き出そうとしたら、姉の目から涙が零れるのに焦って両肩を掴んで向き直る。
「え、何かされた?どっか痛い?」
身を屈めて顔を覗き込もうとした俺は、姉に鼻をつかまれて小さく悲鳴を上げる。
「イッたタ、なにすんだよ!」
乱暴に目元をこする姉は少し鼻が赤くなった笑顔を見せる。
明らかに強がっているその顔に俺は眉を寄せる。
なんでいつもそうやって何でも飲み込んで一人で解決しようとするのかわからない。
「ありがと。でも、馬鹿ね。ケイコちゃん置いてきたらだめでしょ。迎えに行こう」