キミじゃなきゃダメなんだ
「....言ってなかったけど、僕、バイトしてるんだよ。だからお金は....」
「嫌です。払います」
「.........」
...たぶんこういうとき、笑顔で『ありがとう』とか言っておごられるのが正解なのかもしれないけど。
私、別に嬉しくないもん。先輩におごってもらっても。
このひとに嘘はつかない、変な気は遣わないって決めたもんね。
財布を取り出したまま、そのまま動かないで先輩を見つめる。
彼は少しの間困った顔をしていたけど、やがてプッと笑った。
「え...な、なんで笑うんですか」
「いや、さすがだなぁと思って」
「....それは私が、素直におごられないダメな女の子という意味ですか...」
「なんでそうなんの、違うよ。....女の子は、こういうときおごってもらえると喜ぶって聞いてさ」
ええ!?
き、聞いたって。
「だ、誰に?」
「諒に。やっぱり君には通用しなかったけど」
「....だって嬉しくないんですもん。嬉しくないのに喜びません。先輩に嘘つきたくありません」
「...うん。嬉しいよ、ありがと」
「...もう、松原先輩の意見は参考にしないでくださいね。私がおごってもらえて喜ぶような女だと思われていたことが心外です」
「信じてもらえないかもしれないけど、僕も半信半疑だったよ」
ムッとする私の頭を、彼は申し訳なさそうに撫でる。
わざとつっけんどんな口調で「いくらですか」と聞くと、彼は面白そうに笑った。