キミじゃなきゃダメなんだ

そのとき、ちょうど電車が止まって、扉が開いた。

おっさんはこの隙にと言わんばかりに、逃げようとする。


「あっ」


私が声を出すと、イケメンさんががっちりとおっさんの腕を掴んでくれていた。ナイス！


そして私は、被害に遭った女性の方を見た。

彼女は私と目が合うと、一瞬迷うように視線をずらして、それから力なく笑い、首を横に振った。

それはたぶん、『もういいです』という意味で。


イケメンさんもわかったのか、パッと掴んでいた手を離した。

おっさんは危機一髪という顔で、すたこらとホームへ降りていく。


電車は新たに人々を乗せて、またプシュー...と扉を閉めた。


「.....」


シーン...と静まり返る車内。


さっき乗ってきたひとたちはわからないだろうけど、さっきの駅で降りずにいた人達は、私たちを見ていた。