I先輩
「……あの頃の七瀬は、本当に最低な男でした。」
先輩が再び話し出す。
槇先輩の彼女さんは、先輩のことをすごく好きだった。
だけどある日、どんな方法を使ったのか、千彰先輩が槇先輩から彼女さんを奪った。
そして彼女さんは槇先輩に責任を感じて自殺してしまった、という…
その話には、なにか大事な所が抜けている気がした。
「決して彼女は弱い人間ではなかった、それを自殺にまで追い込んでしまったのは、紛れもなく僕の責任です」
先輩は、きっとずっと千彰先輩が憎くて堪らなかったと思う…
「先輩は…今でも、千彰先輩のこと…恨んでますか?」
わたしがそう聞くと、槇先輩は笑った。
「まさか、僕は嫌いな人間と、一緒にいたりしません。
確かに昔は物凄く七瀬が憎かった」
けど、と先輩は付け足した。
「憎しみは次の憎しみしか生まない…反省している人間を、僕には責めることができません」