I先輩
わたしが拒むと、男の人はわたしの席の前まで来て、無理矢理わたしの腕を掴んだ。
「大丈夫、先生には了承済みだから。」
「ちょっ…あの…!」
教室を出て、廊下をずんずんと進んで行く男の人。
腕を掴む力が強すぎて、とてもわたしの力じゃ振り払えない。
それになんだろう、この後ろ姿…どこかで……
「あの…あなたどこかで?」
わたしが聞くと、男の人はピタッと足を止めた。
「いや、あんたと俺は初対面だ。」
「でも、もしかしたらどこかですれ違ったりとか…」
「絶対ない、だって俺昨日帰って来たし。」
帰って来た…って?
「まぁ、見覚えあんのも無理ないな」
男の人はそう言うと、帽子とサングラスをとった。
帽子の下からは茶色い髪の毛が現れて、目はパッチリとした二重。
キレイな顔立ちはどことなくカズ先輩に似ていた。
「もしかして…」
「正解」
男の人はまたニッと笑うと、腕を組んでわたしを見下ろした。